May 23, 2007

■地味なアルバム

「ネタがないときゃレビューしろ!」
これはホームページやブログを運営している者にとっての金言と言っても良い言葉であろう。更新のネタがないときはとりあえず最近聞いたCDの感想とかをアップしておけばその場がしのげるのである。
 とは言え個人サイトのレビューというのも結構あなどれない。雑誌や企業サイトの、広告主の顔色を伺ったちょうちん記事とは違うリアルな情報や感想があり、実際僕もかなり参考にさせてもらっている。だから僕も時々レビューみたいなことをしてネット世界に還元して行こうと思う。

 さて先日Linkin Parkの新譜が出た。しかしこのアルバム、賛否両論あるようだ。『否』の人々の意見としてはリンキンの大きな特徴のひとつであったラップ・パートがほとんどなく、全体に地味にまとまっていることがマイナスらしい。なるほど確かに今度のアルバムはかなり地味な印象がある。先行シングルを聞いたときは僕も「こりゃダメか」と思った。しかしアルバム全体を通して聞いてみると、そんなに悪い印象はなかった。僕はもともとリンキンの『切ないのになぜか熱くなるメロディ』という部分が好きで、ラップ・パートはそれほど重視していなかったせいもあるかもしれない。シングル曲もアルバムの流れの中で聞くとそれなりに生きている感じがしたし、彼らがやりたいことが伝わってくるように思えた。
 しかしながらリンキンパークに関してはそんなに詳しくないので、これくらいにしておく。今回の主題は<地味なアルバム>である。

 好きなミュージシャンのアルバムを発売のたびに追いかけていると、たまにものすごーく地味なアルバムに出くわす瞬間がある。その原因はおそらく大まかにふたつに分けられて、ひとつは単なる才能の枯渇であり、もうひとつはミュージシャンの心理の変化である。

 ブライアン・アダムスに 『Into the Fire』 というアルバムがある。ブライアンといえばブレイクしたアルバム 『RECKLESS』 に代表されるような派手でハツラツとした青春のロックンロールが魅力なわけだが、そんな彼のデイスコグラフィーの中にあっては、この 『Into the Fire』はまるでクレープ屋の行列に並んだ時の私のように浮いてしまっている。ライブの定番曲になった曲も入ってはいるのだが、ファンの間でもアルバムとしてはほとんど失敗作として黙殺されていると言ってよい。実際、これをリアルタイムで聴いていた十代の頃、このアルバムが好きだと言うと、洋楽好きの友達からは「わかってねぇなぁ」という感じで鼻で笑われたものだった。

 しかし、僕は好きなのである。

 このアルバムは確かにえらく地味なのだが、反面、非常に渋く、骨っぽい味わいがあるのだ。なんと言っても歌詞が良い。恐怖と戦うことを歌った 『Heat of the night』 、ネイティブ・アメリカンの大地への思いを歌う大作 『Native son』 など、硬派な感覚にあふれている。
 彼の才能が枯渇していなかったことはこの後の活躍からも明らかである。一説によればアイドル的な扱いをされ、パーティーソングやラブソングを書くことに嫌気がさしていたというブライアンの心理状態が投影された作品だったらしい。見方を変えればそういう時にこれだけの反骨心を搾り出せる彼は、やはりミュージシャンとして、男として一流だとも僕は感じるのである。
 それともうひとつ、このアルバムのライナーの解説は湯川れい子さんの筆によるものなのだが、その文章がこれまた良かった。全文ここに転載したいくらいだが、興味のある方は買うかレンタルするかして読んでみてもらいたい。もちろん、申し出があればいつでも貸し出しはOKである。

 ショウビズの歴史に埋もれ、アマゾンで検索してもずっと下にしか出てこないこのアルバム。だが僕にとってこのアルバムの魅力は何ら色あせることがない。今でも時折CDトレイに乗せ、ぼろぼろになってセロテープで継ぎはぎした歌詞カードに目を通す。気持ちが弱ったり緩んだりしかけた時にこのアルバムを聴くと、心の奥底にあるネジをググッと締め直したような気分になるのだ。


地味と渋いは紙一重


22:11:35 | woodcat | | DISALLOWED (TrackBack) TrackBacks